我が国において,これから研究者として飯を食っていこうとしている若手には終身雇用はほぼ望めません.30歳前後で博士の学位を取得し,その後はポスドクとして1年更新の3年契約などで研究所を転々とするのが一般的です.だけど業績や運によっては契約満了後に失業する可能性もあります.博士号を持ったコンビニ店員(バイト)が誕生する瞬間です.
研究者の世界と切込隊長が書いてる世界ではだいぶ状況が違うと思います.でも隊長のエントリーを読んで根本は同じであるように感じました.研究者の世界において「狭く深く自分の研究だけに没頭していればいい」時代はとっくに終わりました.こんな人間は研究者としてやっていけません.自分の研究の特色や成果を分かり易くプレゼンして研究費を稼いだり,特許を取得したり,企業と提携してプロジェクトを遂行したりできなければ相手にされません.もちろんノーベル賞級の研究者であれば話は別かもしれませんけど.この辺りの事は隊長のエントリーからも感じました(以下).
だから、派遣社員としての年齢雇用制限を越えた30歳ぐらいの人たちが大量に余る現象に直結しているんだとも思う。やはり彼らは商品価値を前提に人材派遣会社で訓練されたパーツのような働きをすることに慣れてしまっているようにも感じる。でも、雇う側として本当に欲しいのは、もちろんスキルや情熱といったものもあるけれども、その人が仕事を通じて何を実現しようとしているのか、何にこだわりを持っているのかといった、人間としての何かを求めているかにほかならないのです。
R30さんが「ほとんどの人が転職せずに1つの会社を勤め上げて一生を終えるという時代は、もはや終わったということなんだろうと思う。理由は、簡単だ。1つの会社が40年間継続して成長するなんてことはほとんどまれである、ということにみんなが気がついた。それだけのことだ。」と言及しているのに対し,隊長が「そりゃあ40年なんて成長を続けられるほどの体力も実力も自信もないのは仕方ないけれども、雇われる側に「ひとつの会社を勤め上げる時代は終わった」と言われてしまう雇い主ってのは、物凄く悲しいと思うわけですよ。」と意見しているのはとても考えさせられます.僕はどちらの意見に賛成とか反対ってわけじゃないんですが,なんていうんだろう・・・自分の意思で転職するんならいいと思うんです.だけど我々研究者の世界は本人の意思とは関係なく,契約が満了したからという機械的な理由だけで転職を強いられる.あと数年間腰を据えて研究をやりたいと思っても,その願いは叶わないのです.それどころか職を失う可能性だって存分に秘めています.
研究者の世界で言うところの「職場を転々としてキャリアを積む」という「キャリア」には,なんとも後付け的且つ言い訳的な印象を受けるんですよね.じゃあ職場を転々としなかったらキャリアは積めないのか?そんなことはないでしょう.直接金儲けにつながらないからという理由で,基礎的な科学研究費の予算を削減したい国の言い訳に聞こえてなりません.だけど基礎研究がしっかりしていないのに,その先の研究ができるでしょうか.基礎が不安定な家はすぐ壊れる.これと同じ事です.
そもそも「職場を転々としてキャリアアップ」という考え方は,アメリカなどの海外から輸入されたものです.日本はこれを真似ているだけ.しかも「職場を転々としてキャリアアップ」できる環境やバックグラウンド,人々の意識や考え方が伴っていないのに,うわべだけを無理して真似ている状態.これでは雇う方・雇われる方の両者に不具合が出て当然です.キャリアアップという言葉やイメージだけが先行している現状を根本から見直さない限り,いろんな矛盾やすれ違いが生じて混乱が続くでしょう.「木を見て森を見ず」ならぬ「森を見て木を見ず」状態を何とかしてくれ(最後は人任せw).
まあ、切込氏経由でここにきたわけですが。
現在進行形で旧国研とかの研究体制やらなんやを調査しているんですよ。で、思ったのが、定職を得た連中とPD状態の連中の待遇の差がすごくあるわけで。じゃあ定職を得た群がGJ連発かというと統計上そうでもなさそうで、これは何がしかの改善が必要ですね。
とはいえ、本当にGJな研究者は比較的容易に職を見つけられているようなので、契約が終了しても他の場所で研究は続けられているのではないでしょうか。っつても、いろいろ苦労があるのは解りますが。。こちとら、一応理系修士もちですから。
研究所長というか管理者層は「職場を転々としてキャリアを積む」に関しては、だめな研究者は自然淘汰されるという考えのようです。それはしがない一納税者の私から見ても同感です。消費税率が10%になることと、公的年金の破綻が確実な今、能力のない人材を養っていく能力は我が国にはありません。それは歌手になりたいからといってすべての希望者をエイベックスがデビューさせているわけではないことと同じです。しかし、30過ぎて放り出されるのはきついと思いますが。社会に順応できるのでしょうか。
さて、少なくとも、赤ポスを考えている分野の方でしたら移動を前提にして研究をするべきでしょう。これからは赤ポスは30-35歳になってから得られる、つまり長く辛いかもしれないPdで磨かれた人材だけが、得られるということなんです。
それは、国として基礎研究をおろそかにするのかという話ですが、難しい話ですね、と逃げます。むしろ、現在行われている業績評価をお手盛りではなく、きちんと摩周湖並みの透明度で行う必要があるのではないでしょうかねぇ。いや、厳密に話をしていったら、赤でみ業界は誇りだらけできりがないんですが。
駄文にて失礼します。
すごく興味深いご意見ありがとうございました.基本的にさえぐささんが仰ることに同感です.でもあえて自分の考えを書きますw.
「ダメな研究者は自然淘汰される」という考えには僕も賛成です.ただ今のやり方だと,ダメじゃない研究者までが自然淘汰されちゃう危険性があります.例え期限付きでも何らかの職に就く場合,個人の能力もさることながら,運が能力と同等またはそれ以上に効いてくるわけですから.まあ運をつかみ取るのも能力のウチ,などと言ってしまえばそれまでなんですが・・・.しかも本当の意味での「運」ならいいんですが,それが悪い意味で「コネ」になってくると,もうどうしようもありません.
これを防ぐには,さえぐささんの言葉を借りれば「摩周湖並みの透明度」で業績評価を行う必要があるんだと思います.IFが無い論文を5本持っている人と,IFが4とか5レベルの論文を2本持っている人.どっちを採用するかと言ったとき,今は論文数で見ていることが多いんじゃないでしょうか?研究を何も知らない事務官(人事の人)が論文数を数え,多い方を採用する,みたいな.もしそうだったら,この世界全体が研究成果を小分けにし,くだらない論文を細々と投稿するようになってしまいます.「それでいいのか?」という疑問はぬぐえません.だってこれは日本における科学研究の衰退を意味しますから.
キャリアアップなどと言うと聞こえがいいですが,実際そんなに良いもんじゃないと僕は思ったりもしてます.しかし冒頭にも書きましたが,さえぐささんが仰る事はその通りだと思っています.要は「ダメな研究者を排除するための”ふるい”」がキャリアアップだというなら,本当にそうゆう結果をもたらすようにするべきだってことじゃないでしょうか.
自分がこれから直面する事だけに,さえぐささんのような立場の方からコメントが貰えて嬉しかったです.やはり隊長のところにはTBを送るべきですねw.
昨日エラーがでてTB送れなかったので今日送りました
最近は助手なんかは任期制再雇用なしとかざらにあるようですし、助教授になるくらいの40くらいまでは研究室を転々とすることはごく当たり前なんでしょうね。
摩周湖並の透明度でうまく行くかはちょっと考えどころだと思っています。もとの田沼の濁り恋しきじゃないですが。コネコネ人事にも利点欠点はあって、欠点は言わずもがなですが、利点は研究能力以外の点である程度のお墨付きがあることでしょうか。業績でとってみたら、自分の実験のために回っている遠心機を止めるような輩だったら困りますし。
R30さん経由で来ました。
アメリカで15年ほど働いているものですが、アメリカも決っしてあまくは無いです。私の知り合いで、「古典ドイツ文学」の博士号を苦労して取得した人がいますが、やはり職がなく、しばらく近所のコミュニティーカレッジ(日本の予備校のようなところ)で「ドイツ語初歩講座」のバイトで食いつないでいました(今は何をしているか知りません)。
また、マイクロソフト時代の同僚には、たくさん物理学の博士号を持っている人もいましたが、「物理では食べていけないから」という理由でソフトウェア業界を選んだそうです。
なお、個人経営のペンキ屋を雇ったことがあるのですが、その人がMBAを持っていたので驚きました。ボーイングの経理部にいたのですが、リストラで一時解雇されたそうです。「景気が良くなればまた雇ってもらえる」と期待してペンキ屋をやって食いつないでいるとのことでした。
外から見ると、一見恵まれているようですが、アメリカにおいても、ビジネスにならない学問の学位をとっても、それで食べていける人はごく限られた人たちだけです。
日本のポスドクというシステムは私にはどうも理解できないのですが、かえって社会不適合者を増やしてしまっているのではないかと思います。
結局のところ、自分のキャリアは自分で考えるしかないわけで、社会においての自分の商品価値をどうたかめるかの努力をするしかないと思います。
MBAのペンキ屋って、80年代のアメリカの話、大学を出てもガソリンスタンドしか働くところが無いという話を思い出すのです。いや、MBAが何ぼの門だというご意見もありましょうが。
> 日本のポスドクというシステムは私にはどうも理解できな
>いのですが、かえって社会不適合者を増やしてしまってい
>るのではないかと思います。
PDは思いっきり海外のルールですが。日本なんかだとD1とかD2ぐらいで所属の研究室に一本釣りされて助手という名の雑用係になり、講師、そして首都の農業と工業を学問する部署において助教授になるなんて話もそれなりに聞いたことも無いとは言わない。
耳学問は大事なんだと思わないと、その下の学費を収めている人たちはやってらんないかも。でも関係者からすると、運も実力のうちですむ話ではないのだが。
みなさん,貴重なご意見どうもありがとうございます.普段はこんなにコメントが入らないブログなので,率直に嬉しく思ってます.
僕も年に数回アメリカの大学へ行って研究をすることがあるんですが,向こうの友達と話をしてると,就職に関しては僕が思っていた以上に厳しいんだという事を知り,ちょっと驚いたものでした.だけどそれでも日本よりはマシだと僕は思ってます.アメリカに摩周湖並の透明度を持った完全な業績評価基準があり,それが機能しているとは思ってません.やはりコネクションもあるでしょう.しかしアメリカの学生(少なくとも僕が年に数回行くアメリカの大学に所属するドクターの学生)と日本のドクターの学生ではおかれている環境が全然違うし,その環境の違いがドクターを取った後にも利いている気がしてなりません.
日本でドクターの学生になろうと思ったら,よっぽどとんでもない奴じゃない限りその研究室は受け入れるでしょう.しかしアメリカは違う.研究室に入りたいなら研究計画書を書いてアドバイザーと交渉・相談する.そこでもし話が合わなければ配属されないとのことでした.これはドクターの学生がアドバイザーの研究費で雇われるためです.お金が無いアドバイザーなら最悪の場合「今年は一人も学生を取れない」なんて事もあるわけで.つまりここで学生は第一回目の”ふるい”にかけられているわけです.日本はこの時点での”ふるい”はありませんね.あったとしても超適当でしょう(無いに等しいということ).
またアメリカの学生は雇われの身ですから,研究室配属後はガンガン鍛えられます(もちろんこの中で脱落していく者もあり).そして最終的に残った者だけがPh.D.となり,PDの世界へ進んでいくわけです.日本でも最近はCOEができて,そこの学生はいろんな意味で鍛えられるそうですね.でもそれはごく一部の大学・研究室にすぎません.satoshiさんが「日本のポスドクというシステムは社会不適合者を増やしてしまっているのではないか」と仰る意味もよくわかります.
で,結局はsatoshiさんが最後の2行で書かれていることに集約するんだと思います.しかしこれからPDとしてやっていこうとしている大半の学生のホンネは,さえぐささんが最後の2行で書かれている事だったりもしますw.
ドロップアウトしたならともかく、まじめに大学通って論文出してもまともな職にありつけない人がいる時代ですからね。
そうゆう研究室は、人とらなきゃいいのにねなにをかんちがいしているのやら。
ドクターに対する需要と供給のバランスが明らかにおかしいですからね.その中で生き抜くには本人次第・・・とか言われたら,そうなんだろうけど,でもなんかムカツキますw.でもこの道を目指してしまった限り,そうゆう十字架は背負い続けるしか無いんでしょうね.
テニア(終身被雇用権)を取得したら、定年まで身分保障されて、勤続年数で昇給するのでないの? 門外漢なので質問なのですが…
それと、転職しつつキャリアアップと言っても、業種自体が没落傾向な場合、どうすればいいのだ?って疑問も有るです。
OOTKYJさん,コメントどうも!
>テニア(終身被雇用権)を取得したら、定年まで身分保障されて、
>勤続年数で昇給するのでないの?
そうゆう大学・研究機関もまだあるかもしれませんが,すでにほとんどのところで終身雇用制度が廃止されています(国立・私立関係なく).今後も廃止の傾向が強まるでしょうね.自分の身分は自分で保障するような感じです.だから勤続年数で昇給というよりは,その人の人間性だとか,研究の実績・スキルによって昇給すると言った方が適切かと思います.
しかし・・・
>転職しつつキャリアアップと言っても、業種自体が没落傾向な場合、
>どうすればいいのだ?
そうなんです.仰るとおり「どうすればいいんだ?」って具合ですw.
没落傾向でなくとも,もともとマニアックな業種であれば就職先も少ないわけですから,職場を転々としながらキャリアアップなんてなかなかできないんですね.よって,分野にも依ると思いますが,僕なんかの場合だと海外も視野に入れなければ就職先がありません.ですが海外の大学・研究機関には世界中から優秀な人が集まりますから,倍率も高くなります.そこで利いてくるのが自分の実績です.だからやっぱり,自分の身は自分で保障するしかないんだと思います.
先日,「日本の科学論文の質が落ちている」というニュースを見ましたが,別に不思議な事じゃないと思いました.こんな環境で質の高い研究なんてなかなかできませんからね.論文の質より数で採用を決める機関が多いんだから,そりゃー質を落として数を稼ぎますよ.まったくおかしな世の中です(だと思います).
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