Nov 23, 2004

技術者の今と昔を考える

NHKの人気番組に「プロジェクトX」というのがありますが,この番組内で登場する技術者と今の技術者は,同じ技術者でも随分違うと感じます.

特許権訴訟 味の素と元社員和解 発明対価1億5000万円

プロジェクトXという番組は,あくまでも「番組」ですから,視聴者が面白いと感じるように少しくらい内容もいじってあると思うんです.とは言っても,基本的には事実に基づいて制作してあるんだと思います.これまでに僕も同番組を何回も見ましたが,何回も感動させられました.

では,なぜプロジェクトXは感動するんでしょうか.感動の要素はいくつかあるでしょうけど,その中の1つには「お金」というキーワードがあると思うんです.プロジェクトXに登場する技術者は,企業の歯車の一部であり仕事の虫です.上司や会社から無理難題を押しつけられ,それを試行錯誤しながら解決する.そこで生まれた技術や特許なんかの権利はすべて会社に帰属し,自分には1つも見返りがありません.でも彼らにとってはお金とか名誉なんてどうでもよくて,ただ任された難しいプロジェクトを成功させた喜びだけを噛みしめます.「この仕事に従事できることが嬉しいんだ.お金なんて生活できるだけの最低限をもらえれば十分なんだ.」というのが,プロジェクトXの中に見る技術者像です.

一方,現代の技術者は冒頭でリンクを張った「味の素の成瀬さん」のように,見返りを求めます.自分の仕事によってもたらされた成果に見合う報酬が無ければ,裁判を起こしてまでそれを得ようとします.

「どちらが人間的か?」を考えたら,僕は成瀬さんの方だと思いますし,もし自分が成瀬さんだったら・・・と考えると,やはり成瀬さんと同じ事をやったのではないかと思うわけです.それに,一企業に勤めるたかが(と言っては失礼かもしれませんが)技術者でも,自分が開発した技術や発明によって,1億円以上の大金を得ることができるとなれば,同僚や後輩,または他企業の同業者にも「俺だってがんばろう!」という”やる気”が生まれると思うんです.これによって,また優れた技術が生まれるかもしれないし,巡り巡って景気がよくなるかもしれません.

しかし・・・なんか寂しい気もします.これは数年前の話です.工業系の高校や大学の学生を対象としたアンケートで,「将来の夢はなんですか?」という質問があったのですが,それに対する答えで一番多かったのは「プロジェクトXに出れるような仕事をしたい」というものでした.多くの学生が,仕事の虫になって黙々と働く,ある種”日本人らしい”技術者像に憧れを抱いたんだと思います.

今後も報酬を巡った技術者による裁判が増えることが予想されます.プロジェクトXでも「このプロジェクトで,技術者たちは10億円の報酬を勝ち取った」とか,田口トモロヲさんがナレーションする日が来るかもしれません.そんな日が来ても,学生たちは数年前と同じように「将来はプロジェクトXにでれるような仕事をしたい」とアンケートで答えるでしょうか.もしそのような答えが多くても,それは数年前のものとはだいぶ意味合いの違った答えだと思います.とても味気なく感じます.


Posted at 22:05 in 主張・考察・その他 | Permalink | 2 Comments | | edit

Comments

今の技術者も可哀想…

かつて日本が高度成長にあって、会社が繁栄することがかなり高い確率で予測されていた頃の技術者は努力すれば自ずと道は開け、組織の人間皆が一様に豊かな暮らしを送れる、そして老後の心配も少ないと言う状況があったのだと思います。
また、生活レベルも戦後の時期に比べればずっと豊かであり、子供の教育費も負担にならない時代だったと思います。そういう環境は、技術者のみならず、末端の作業員までが職業倫理とかプロ意識を持ちやすい環境だったのではないでしょうか。
転じて現在は経済は拡張する展望も無く、国際競争では人権も組合も無い国々と競争せねばならず、多くの人が将来の自分の収入に大きな不安を持っています。更に追い討ちをかける様にテレビやマスコミは「老後の不安」「老後生活の為の蓄え」を訴える一方、消費意欲をあおる宣伝を流しています。又、組織では「能力主義」とか言って組織にとって都合の悪い人はリストラされたり、冷遇されたりする事が多くなっています。
結果として人々は「プロパガンダにより作られた」生活レベルを維持する、あるいは追いつく為の消費活動に傾く一方で、自分の現在そして将来の生活への不安を高めつつあると思います。
そういう状況ではかつてのような職業倫理観やプロ意識と言うのは往々にして邪魔になることも多いのではないでしょうか。
今でも、生活や老後の心配などどこ吹く風、と言う感性を持った技術者はたくさんいると思いますが、職業倫理を失った組織がそう言う人達を大事にしなくなったのがcozymaxさんがかかれているような事の大きな原因の一つかもしれません。
プロジェクトXは2~3度見ましたが、エンターティメントとしては評価しますが、「教訓」を与えるドキュメンタリーではないと思いました。ちなみにあの番組の統括プロデューサーの今井彰氏は僕の小学校のときの知り合いです。(何たる差がついたことか…)

Posted by Taka at 2004/11/24 (Wed) 09:40:23

反論が無いので感想を(笑)

takaさん,コメントありがとうございました.

「高齢者の運転に思うこと」でのやり取りがウソのように,今回頂いたコメントには反論がありません(笑).でも,全く反論が無いと「そうですよねぇ」で終わってしまって面白くないので(笑),takaさんのコメントを読んだ感想を書きます.

プロジェクトXでよく取り上げられるのは,高度経済成長時の話だと思います.僕はその時代を経験していませんが,日本中が活気にあふれていたと聞きます.たぶんこの頃から大きな貧富の差が無くなり,「日本人総中流化」が始まったのではないでしょうか.この頃の技術者というのは,takaさんのコメント(6行目まで)で書かれたようなバックグラウンドを背負って生活していたんだと,僕も思います.

しかし現在は,これまたtakaさんが書かれたコメント(7~14行)のようなバックグラウンドがあります.

海外に行くと気づきますが,日本人ほどおとなしい人種も珍しいと思うんです.自分からアピールすることを良く思わないんですね.無駄口をたたかず,寡黙に働く.これが日本人の典型的なスタイルです.しかし最近は「スタイルでした」と過去形で言った方がしっくり来る世の中になりつつあります.これは一口に,欧米化しているんだと思うんです.言い方を変えると,欧米化しないとやっていけない時代に入っているんだと思います.

「自分はこうゆう仕事ができる.自分はこんな経歴を持っている.だから僕にこの仕事をやらせてください.もしやらせてくれたら,絶対に後悔させませんよ!」などと,自分というものを論理的且つ分かり易くアピールできない人は,リストラの対象になるような世の中になってきていると思います.昔は営業部の人がやっていたようなことを,今は技術者でもやらねばなりません(我々研究者も同じですけど).しかし日本人はこれが苦手です.

技術者や研究者など,個人単位だけでなく,企業としても「欧米化」の波が押し寄せています.つまり,よっぽどの会社じゃない限り,プロジェクトXに見るような技術者を雇用し続けることはできないし,技術者個人としても,このご時世ではやっていけないのかもしれません.

研究の分野でもそうなんですが,どうも最近の日本は基礎的な事をすっとばして,応用に走ってばかりいます.何故かというと,応用研究は,すぐ金儲けに繋がるからです.しかし基礎研究を疎かにするような国に未来はあるでしょうか.技術大国ニッポンなんていう肩書きは,あと5年もすれば無くなるんじゃないでしょうか.

10数年前にバブルがはじけたとき,もう二度と同じ過ちを犯さないように気を付けようと日本中が誓ったくせに,またバブルの時代を追い求めている気がしてなりません.

プロジェクトXに見る社会は,今と比べたら不便かもしれません.インターネットだって無い時代ですからね.しかし僕はあの時代に憧れます.

最後に・・・

takaさんwrote:
プロジェクトXは2~3度見ましたが、エンターティメントとしては評価しますが、「教訓」を与えるドキュメンタリーではないと思いました。ちなみにあの番組の統括プロデューサーの今井彰氏は僕の小学校のときの知り合いです。(何たる差がついたことか…)

僕もプロジェクトXはドキュメンタリーでは無いと思います.でも「教訓」や「感動」や「やる気」は,いくつか得ていますよ.「プロジェクトXの世界に憧れている若者(でもないけど)がいる」と,何かの機会に今井氏にお伝えください(笑).

あ~,今回も長くなった・・・.

Posted by cozymax at 2004/11/24 (Wed) 20:16:00
[ 2 Comments ]
Post a comment

writeback message: Ready to post a comment.









Remember the above info?
管理者用コメント編集:
パスワード: